PEOPLE
We value being a store. A future filled with Makita fabrics in our daily lives
商店であることを大切に。暮らしに槙田の生地が溢れる未来を
2022年7月より槙田商店の6代目社長に就任した槇田洋一と申します。前社長は顧問として在籍しており、今まで培ってきた槙田商店の魅力を伸ばしながら、今までやったことのないことにチャレンジしながら、新しい槙田商店を作っていけたらと考えています。
Q:「槙田商店について教えてください。」
弊社は、お客様からご依頼いただいた服地や傘生地を織る織物工場で、傘は織物の裁断、縫製、組立てまで一貫生産をしています。私は主に傘生地、弟である専務の哲也が服地を担当しており、近年では自社のブランド「槇田商店」も展開しています。
Q:「槙田商店の傘について、教えてください。」
私は、槙田商店の傘は「美しい」と思っています。自分たちの傘だからかもしれませんが、街中で目に留まる傘です。先日、東京出張をしていたスタッフが、雨の街で素敵な方が槙田商店の傘をさしているのを見つけて嬉しくなったと報告をしてくれました。私自身も銀座の通りで、美しい婦人がリンドベリーのハーバリウム(植物標本柄)の傘をさしていらっしゃるのを思わず見惚れてしまったことがあります。「傘なんて売れないよ」と言われながら出展したニューヨークでも取引きのご縁をいただき、お客様が傘を使っていたら、通りすがりの車中から「Beautiful Umbrella!!」と声をかけられたのよと、嬉しそうに教えていただきました。うちの傘はニューヨークでも褒められる傘なんだと、とても嬉しかったです。でもなんでこんなにちゃんと目につくのかな?と分析すると槙田商店の傘は、糸を一本一本を染めてから織る先染め織物で作っているから、きっと色柄に立体感と深みがあり、雨に濡れたり、太陽にあたることで、その美しさが際立つのかなと思っています。
Q:「きれいな色が多いですね。」
ありがとうございます。派手な色を使うというより、世界に色が増えるといいなと心がけています。天気が悪いとグレーの世界が広がってしまいますし、暑すぎる日は暑さにうんざりして視線が下がってしまう。傘は、そんなネガティブな日に使う「もの」なので、綺麗な色や美しい傘だったら、少しだけポジティブに変換できるんじゃないかと思っています。「素敵な傘ですね」って褒めていただけると、嬉しいお言葉もいただきます。傘は、服ほど体に近くないので「もの」なんです。だからこそ、ものの力をちゃんと強くしてあげることで、長く使っていただける「もの」を作っていきたいと思っています。
Q:「傘を通じてやっていきたいことはありますか?」
「もの」が変わると扱い方が変わり、行動が変わります。ちゃんと大切にしたいと思っていただける傘を作ってお渡しすることは単純な販売ではなく、傘を通じて丁寧な暮らし、いいものをじっくり長く使う楽しみをお伝えできたらと僭越ながら思っているんです。傘はどうしても失くしやすいから、いい傘をさしていらっしゃる方が少ないのは事実ですので、おこがましいですが傘育もしていきたいです。
お客様からも「なかなかいい傘を買える場所がない」と言われることが、多々ありますので「傘の魅力を伝え、ご購入いただける場所を作りたい。」と思っています。はじめは都内で小さな店舗を持つことも考えていましたが、仲間たちと都内や海外含め様々な地域で販売をする機会をいただき、いろんな方々に出会い、経験させていただいて思ったことは、やっぱりこの地元できちんとお店をやっていきたいなということ。この地域の風景、暮らし、そこでずっと培われてきたものづくりをお客様に見て、感じていただきたいんです。イメージとしては複合的なサロンみたいな場所みたいな感じでしょうか。
私達の工場がある山梨県の西桂町で、織物産地の歴史や確かなものづくりのこと、傘のことをお話しできる場所を作っていきたいです。その場所ではぜひ傘選びのお手伝いもしたいです。ポップアップなどでお客様とお話しさせていただいた際に気がつくことなのですが、傘選びは意外と何を基準にしていいかがわかりにくいとのこと。確かに、色柄だけでなく、体格に合う骨の数、サイズ、さらに使い方によって長傘がいいか折りたたみがいいか、あと色柄に関しても飽きる飽きないも大切な基準です。空気と水が美しい西桂町にお越しいただき、ゆっくりと織物や傘の魅力にふれ、自分にぴったりな傘選びをしていただける、そんな場所を近い将来に形にしていきたいです。傘の美しさを客観的に発見できる傘の写真展なんかもできたらいいですね。
Q:「おすすめの傘はどれですか?」
全部おすすめなのですが、使われる方のお召しになっていらっしゃるファッションや風景との組み合わせで傘の見え方は変わります。お洋服が華やかな方や色柄をよくお召しになる方は、紳士物のストライプや無地がおすすめです。店頭ではやはり美しい色柄の傘の方が売れるのですが、実際にオンラインではこのベーシックラインがよく売れます。ビジネスだけでなくきちんとしたシーンでも自信を持ってお使いいただける高級感もありますので、ファッションを引き立てるという観点でもおすすめです。
色という意味ではグリーンやブラウンの傘もあまり他では見られず、織物らしい深みが美しいので人気です。
Q:「槙田商店は個性的な傘がある、そんなイメージがあります。」
個性的な傘が生まれるにあたり、2009年にスタートした東京造形大学と郡内産地の産学コラボに参加したことが、大きなきっかけになりました。私達は2014年から参加したのですが、今も社員として活躍してくれているテキスタイルデザイナーもその産学コラボがきっかけで入社してくれて、彼女がデザインした日傘「菜-sai-」は、やまなし産業大賞の優秀賞を受賞しました。
製品は作るだけでなく、売る楽しさもあるのです。織物は材料ですが、製品はそのまま使っていただけるのでコミュニケーションが明確なんです。せっかく織物から作れるのだから、製品になった時に他にはない傘を作っていきたいと企画、デザイン、生地生産、傘生産、販売など槙田商店のさまざまな分野のスタッフがつながる傘づくりを心がけています。店頭でも「他にはなかなかない傘ばかりですね。」とお声をいただけるのが嬉しいです。
もちろん、お客様の製品を製造する「OEM」の良さもあります。生産数がまとまることで、安定的に職人さんがものづくりを続けられますし、槙田商店の技術をふんだんに活かすことができます。
しかし、産地の仲間達と外に出て行っていろんな方々と出会い、経験を積んで自分たちがどんな会社でありたいかが見えてきました。
それは「商店でありたい」ということ。
Q:「槙田商店の“商店”ですね。」
そう、社名に入っている「商店」です。
一般的に、工場が作るオリジナル製品はファクトリーブランドと言われていますが、ファクトリーブランドは工場が持つ品質や技術が伝わる価値があると思っています。もちろん槙田商店も織物を製造するファクトリーとしてその部分を誇りに思っています。
ただそれ以上に「商店」でありたいと思ったんです。
産地の仲間とプロダクトを直接売りにいくハタオリトラベルという活動に参加させていただいたのですが、ハタオリトラベルの一つのコンセプトはslow productsなんです。富士山麓の小さな織物産地で、古来から培われてきた技術や暮らしの美意識みたいなものを作り手である機屋が直接お客様と会話させていただきながら伝えていくというもの。この活動で作ったもの、やったことって、名前がないものなので、とてもワクワクしたんです。
「商店でありたい」という思いには、そういう活動範囲を広げていく中で、自分たちが何者であるべきかという試行錯誤が込められています。槙田商店は織物を織っていて、それを買ってくださる問屋さんやブランドの方々がいらっしゃる。でも一方で傘も作り、それを卸す仕事もあればオリジナルの傘を販売している。槙田商店は何屋だ?言われたら「商店です。」と言い切れる。なぜならいずれも大切なことは「お客様にとってメリットがちゃんとあるか。槙田商店でやる意味があるか」だと思っているからです。
「顧客目線」とよく言われることかもしれませんが、問屋さんも、製品を使ってくださる方もお客様。自分たちが商店でひとりひとりを接客させていただくように細やかにその方々にとってメリットがちゃんとあるものを作りたいと思っています。
Q:「商店として大切にしていることは?」
品質は何よりも大切です。そして同様にコストも大事にしています。どんなにいいものでも、価格とのバランスが悪いとよくない。満足して手にし、使っていただけるか、その気持ちに見合う金額で提供できるようにコストを考えることも槙田商店らしさだと思っています。精魂込めて大切に作った製品を喜んでいただきたいですしね!
オリジナル製品を作り始めたことで、嬉しい瞬間に出会うことが増えました。
たとえば高校の同窓会に行ったら「テレビで見たから買ったよ。使ったらすごく良かった!」なんて言っていただけたり、海外にいる友人にも日本らしい贈り物をしたいからと言って注文をもらえたりすると、嬉しいですね。
Q.「これからの槙田商店について、教えてください。」
織物である「生地」は、暮らしに欠かせません。人の暮らしに美しい色や質感を添え、人と人を繋ぐ、槙田商店の生地がある暮らしを目指してこれからもものづくりをみんなでやっていきたいって思うんです。それは生地屋でも傘屋でもなく、槙田という「商店」が語る言葉を持つことだと信じています。だからこそ、「槙田商店の生地がある暮らし」を作っていきたいと思っています。
槙田商店は、西桂で1866年以来ずっとお仕事をさせていただいています。その間に世界も変わり、産地もさまざまな変化を経験してきました。でもこれから先、次の100年もこの美しい西桂から日本中、そして世界に美しいものをお届けし続けられるように日々努力していきたいですね。